

私がアナログ世界で味わったジェンダー問題
短大卒業後、某証券会社に勤務した。店頭営業課に所属し、顧客に株式や投資信託を勧める業務は、男性営業マンとほとんど変わらぬ内容であった。が、給料体制は事務職扱いで、男性よりもぐっと抑えた金額となっていた。労働組合はあったが、この不思議な現象に異を唱えるものはなく、私もそれを受け入れるしかなかった。
そして結婚が決まると、当然のごとく退職を迫られた。
女性だから仕方がない。
すべてがこの一語につきた。私の退職時、預かり資産は3億を越えていた。四年半の勤務で積み上げた実績もビジネスマンとしての能力も、私が”女性である”ということを越えられず、言葉だけの寿退社を強いられてしまったのである。
能力の棚卸し。そしてパソコンとの出会い。
証券会社から離れ、私に職種は”専業主婦”となった。次第に経済新聞を読むことをしなくなり、為替動向もわからなくなり、そうして二人の子どもを出産した。
幼子を育むことで、女性としての幸福感はあったが、社会人としての己の存在理由は見失っていた。
このまま子どもの成長を見つめるだけが私の人生だろうか?
社会に関わることなく生きて中に、私自身の喜びはあるのだろうか?
私は自分の能力の棚卸しに掛かった。私の持っている力のうち、社会の中でビジネスとして通用するものは何かを探ってみた。
探って、探って、出てきた答え。それは文筆業への志願だった。学生時代からエッセイや小説を書いていた私は、文章力ならば自信があったのである。
ちょうどその頃、ウインドウズ95が登場し、パソコンが一般家庭に普及しはじめていた。我が家でも夫がパソコンを購入し、当時二歳と五歳の子供たちが夢中になった。夫が会社に行っている間でも、子供たちが勝手にパソコンを起動し、トラブルを起こしては私を困らせた。私はパソコンについては全く無知だったのだ。
夫の書斎からパソコン雑誌を取ってきては何冊も読んでみたが、何を書いているのか理解できない。書店に行っても初心者向けの入門書や攻略本はほとんど無いに等しい。これではパソコンを始めた人は困るだろう。誰かもっと分かりやすい言葉で、初心者が抱く疑問に明確に回答する解説書を書いて欲しい。
そう思った時、ひらめいた。私が書けばよいではないか!
この瞬間、私の目指すべき道が決まったのだ。パソコンライターとして、私のような悩みを持つ人のために、役立つ記事を書くのだ。証券会社退職から七年目の決意であった。
デジタルの世界で、自分の舞台を見つけた。
あれから四年、今、私はSOHOライターと呼ばれている。福岡県北九州市に居ながらにして、全国誌である複数のパソコン雑誌で執筆し、単行本を出版。メーカーのホームページで連載したり、コンテンツの政策に関わったりもしている。
スモールオフィス・ホームオフィスの略称であるSOHOは、あらゆるハンデを乗り越える新時代の職務形態である。私に仕事の手順はこうだ。
まず、東京のクライアントに、自分が練った企画をメールで持ちかける。先方から返信があり、打ち合わせが始まる。何度かメールのやり取りの後、正式な執筆依頼があり、私は仕事に掛かる。出来上がった原稿は、同じくメールで送信する。数週間後、私の署名記事が掲載された書物が店頭に並ぶ。またはインターネット上にアップする。読者からの反応で、私の評価は決まり、次なる仕事へ繋がっていく。
SOHOで仕事をするにあたり、自分が女性であることを意識することは全く無い。男性ライターと原稿料が違うということは皆無である。そして居住地のハンデもない。
つまり、実力さえあれば、ビジネスチャンスはいくらでも掴めるのである。
会社に属していた頃は、自分の待遇を不当に感じてはいても、事態を改善する術を持てなかった。だが、今は報酬について自分で交渉することができる。納得いかない金額を提示された時には、こちらから断ることも可能だ。
そうして引き受けた仕事への責任はかなり重い。一度ミスをすると、二度と依頼はこない。その責務はサラリーマンとは比べものにならない重さだ。
それでも私は、今の仕事のやり方に満足している。存分に力を試すことが出来る。デジタルの世界で、やり甲斐を見いだしている。この世界こそ、私が求めていた完全実力主義の舞台であり、ビジネスチャンスの宝庫なのである。
SOHO支援活動を求める声に答えて
デジタルの世界では、誰もが平等の舞台に立つことが出来る。実力のあるものが、アイデア次第でビジネスを展開していける この素晴らしさに、そろそろ多くの人が気づき始めているようだ。寄らば大樹の陰であった企業戦士もいつリストラの嵐に飲まれるやもしれない。それならば、独立して自分の好きな仕事にチャレンジしようとの考えは私も大いに賛成だ。
だが、あまりインターネットにもてはやされすぎて、安易にSOHOに走る人がでてきている。いや、続出していると言ってもよいかもしれない。そのため仕事に対する意識の低いSOHOワーカーが起こすトラブルが、社会問題になりつつある。SOHOは、いわばフリーランスに近い立場である。契約や営業のノウハウを事前に持っていなければ、ビジネスを円滑に進めることは困難だ。SOHOで自分のビジネスを育てようとしても、その根幹を固める術を持たなくては挫折は早い。誰かが指導しなくてはならない。
私は自分の経験をもとに、SOHO入門書『ホームメードSOHO』(工学者)を執筆した。SOHO初心者が抱く疑問に答える形で、仕事のやり取りを解説。読者は一冊読み上げた時、SOHOビジネスの一通りのノウハウを身に付けられるように構成している。
この単行本が縁で、九州ポリテクカレッジの能力開発セミナーに講座を持つことになった。『SOHOライター美縞ゆみ子講座』である。SOHO初心者を対象とした、インターネット営業術やメールを使っての納品の演習などが主な内容だ。
受講者の声を聞くと、「ひとりでパソコンに向かっていると、これで良いのかという疑問がわいてきて、常に孤独感がある。身近に同僚や上司がいないことが気軽な反面、心細い。」
といった悩みが多い。SOHO実践者の話を直接聞くために、セミナーに参加しているのだと言う。
私はSOHO入門書で、これらの悩みを持つ人に、SOHO支援を行ったつもりであった。だが、人々のニーズは紙媒体では無く、リアルタイムで得られる情報にある。またデジタルの技術進歩は目覚しく、執筆時には最新の情報も3ヶ月すると古くなってしまう。情報は生き物で、新鮮なほど価値は高い。
はからずも、私は北九州市という地方都市でSOHOを実践しているので、地元の後輩を育成することを公的機関から求められることが多い。セミナーの講師業も一環として手掛けてみた。回を重ねると、SOHO志願者の求めているものが刻一刻として変化していることにも気付いた。地元で開催するセミナーは、これはこれで意義があるものとは思うが、私はもう一歩、デジタルの世界に踏み出したいと考えている。
事項清華わざわざセミナー会場に足を運ばずとも、自宅のパソコンでセミナーが受講できるよう、講義をインターネット放送で行いたいのである。地元でのSOHO支援をデジタルの世界で行えば、日本中のSOHO志願者に手を差し伸べることが可能だ
ネットビジネスとして、情報や知識の配信を
通常セミナーを開催するには、日時を指定し、会場を押さえ、講師を依頼する。受講生募集の宣伝をし、応募を受けつけ、受講料を集金する。なんと手間の掛かる事だろう。
受講生側は、セミナーの開催日に合わせてスケジュールを調整し、会場まで足を運ばねばならない。もし体調を崩したら欠席となり、受講料もパアだ。
これらの問題点は、インターネット放送でのセミナーなら全て解決できる。講師が自宅にカメラを備えれば、会場と言う器は全く問題が無い。会場の心配が無くなれば、開催時間も自由に設定が可能だ。平日の昼間だけでなく、休日や深夜のセミナーも開催できるだろう。将来SOHOとして独立を希望する、サラリーマンの受講が増えるのではないだろうか。
インターネットは無料で情報を得られるツールとして、今や人気が高い。だが私は、こういったセミナーは有料での配信でなくてはならないと考える。なぜなら、無料だと受講生側に真剣みが不足し、せっかくの知識の会得しないままに受け流してしまう危惧があるからだ。過程での受講と言う利便性が、緊張感の無さゆえに悪い方に働いてしまわないよう配慮が必要なのである。有料制のセミナー受講生は、受講領分の情報を得ようと必死に学ぶ。そうあってこそ人材は育成されるものだ。
受講料は電子マネーで支払い、テキストはインターネットの通販で購入する。質問があれば講師にメールで問い合わせ、次回の開催日は常時ホームページで確認が取れる。私の想定するネットセミナーは、手続きからアフターケアまで、全てが自宅のパソコンで行える形式である。
また、このコンテンツを制作する技術者は、やはりSOHOワーカーの中から発掘したい。本当の実力者同士がビジネスパートナーを組めば、より完成度の高いビジネスが誕生するだろう。全てインターネットで構築する点こそが私のビジネスでは重要なのである。
何ものにもとらわれず、優秀な人材の雇用を目指す
現実社会では、企業でのリストラが相次いでいる。また高齢者の雇用問題もある。優秀な人材でありながら、職場を持てない人を講師に招き、経験者・技術者によるネットセミナーを開催してはどうだろうか。
私が行っているようなSOHO支援にとどまらず、例えば、長年経理課で経験をつんできた人が講師となって、仕事のポイントなどを紹介するビジネス講座や、退職した教師によるインターネット塾の開催など。あらゆる分野の達人に、インターネットを使っての研修や講義を行ってもらうのである。
私が主催するネットセミナーは、基本的に実務経験者による実践に基づいたノウハウの提示だ。学位や資格習得を目的にするものではない。SOHOが実力主義であるのと同様、求められるのは現場で役立つ情報だ。
講師はその道の達人であるならば、老若男女を問わない。むしろ熟練した人材は、高齢者の中に多いだろう。高齢者にとって各地に足を運んでの研修は体力的に無理であっても、インターネット放送ならば、身体の負担を最小限に押さえて働くことが出来る。つまり、高齢者の再雇用につながるのである。
まずは一般家庭にインターネットを普及する活動を
すでにアメリカでは、インターネットによる留学生の受付をする大学が人気を博しており、世界中から単位取得を目指して学生が集まっていると聞く。日本でも、インターネットスクールは存在している。が、それほど一般化しないのは、日本の通信費用がアメリカにくべると工学で、インターネットそのものが一般家庭に浸透していないだめである。これらの点をクリアするには、行政からの支援が必要であろう。
今、地方自治体は景気対策の一環として、SOHO支援策の検討が各方面で積極席に行われている。単なる中小企業やベンチャー企業の育成ではなく、SOHOを視野に入れるならば、インターネット環境における支援策が最も急がれるのではないだろうか。
年明けそうそう、福岡県企画振興部高度情報政策課から、SOHO推進策のためのヒアリングを私は受ける事になっている。まずは、公的機関が運営するプロバイダの開設から提案してみたい。ネットビジネスを成功させるためには、市場を開くことは最も重要である。この通信環境においては、一般企業に任せていると首都圏と地方では温度差が生じてしまう。日本の国レベルで取り組まなくては、景気の活性化にストレートに繋がらないだろう。
地元でのSOHO活動に孤軍奮闘しているうち、市や県が私に注目しはじめ、ここ1年、様々な方面から意見の提示を求められている。私の投げる石は小さいかもしれないが、やがてはその波紋が岸につくように、国及び自治体の力で全国的にインターネット環境が設備されることを切に望みたい。
アイデアを実現させるために、ネットプロモートを
現実問題として、私にインターネット放送を行う機材や通信環境は無い。ネットセミナーのビジネスをはじめるなら、これらを設備するための資金を調達しなくてはならない。
だが、貸し渋りの激しい銀行が、一介のSOHOライターに融資してくれるはずも無い。
となれば、私はスポンサーを探すことになる。少ない人脈を辿って、資金を提供してくれそうな人や企業を探すのは、膨大な手間と時間が掛かるだろう。そんな時間は私には無い。スポンサー探しも、迅速で場所を選ばないインターネットで行うのがベストだ。
ホームページ上に企画書を書き上げ、スポンサーを募集する。私の無事ネスに資金提供を出してもらえるよう、いかにプロモートするかが大きな課題だが、これは自分の努力でいくらでもカバーできるだろう。
問題は、有料セミナーを受講するニーズがどれだけあるかだ。現時点の日本のインターネット環境を考えると、料金通信速度についてはまた不首尾な点が多い。これは行政は関連会社の今後の努力を期待することになる。他力本願のようではあるが、今の技術改新のスピードを考えると、近い将来日本の通信環境が設備されるのは明らかだ。私には世の中の動きをにらみながら、ビジネスのスタート時を判断する目を持つことこそ重要なのである。
全てが符合した時、新事業はスタートする
いつ、GOを出すか。そのタイミングを計りつつ、私は本業に力を入れている。ライターとしての知名度を上げることが、スポンサー募集の原動力に繋がると思うからである。
デジタルの世界は、確かに大きな可能性を秘めた場所ではあるが、信頼関係を築くには非常に難しい場だ。アナログの世界でも認められる実績を持たねば、私の声に耳を傾けるスポンサーは誰も居ないだろう。
セミナーの講師は実務経験者の中から選抜するという構想と同様、デジタルの世界で認められるには、アナログの世界で通用する実力と実績が不可欠なのである。
日本におけるインターネットの普及率アップと、私の実績のアップがどの時点で符合し、新事業のビジネスパートナー、そしてスポンサーと出会えるか。2000年の私の課題は、全ての駒を効果的に集めることにある。
ネットワークを活用し、男女の差や居住地のハンデを持たないSOHOという職務形態は、新たな雇用の場が最も生まれやすいと思われる。
SOHOスタイルを根底とした新事業によって、有望な人材ながら活躍の場を無くした人々に、第二の舞台を提供したい。そして情報や知識をインターネットで受け取った人々は、自分の能力の発見や技術の習得によって、就業のチャンスを掴んで欲しい。私の願いはそこにある。
21世紀は、デジタルの世界から積極的な雇用が生み出され、個人が己の力のみで行きぬくSOHOが大きく注目される時代となるだろう。
新時代における事業は、単に収益性を求めるだけではなく、日本社会における構造の変化を柔軟に取り入れていくことが不可欠なのである。